第6部 悲しき殺人鬼 <上>

 
探偵事務所夕方.jpg
いつものように、俺はこの事務所のデスクにいた。新命警部補が訪れ、缶コーヒーをふるまってくれた。
もう一人、今日は特別な来客予定がある。その人と話して、解決しなければならない事件があるからだ。
「すまんね、まあ面倒な依頼を持ってきて」
新命警部補が謝罪してきた。
「いえ、新命さんの依頼なら大歓迎ですよ。それに、この事件は是非、解決したいと思っています」
そうだ。こんな哀しい事件、ほったらかしになんてできない。被害者のためでだけではなく、犯人のためにも。
 
ドアを叩く音がした。
「どうぞ」
俺が大声で言うと、ドアがゆっくりと開いた。
入ってきたその人物に椅子を差し出した。新命警部補が缶コーヒーを勧め、話を始める。
「では、私はこれで失礼します。用事もありますので。海城探偵と、ごゆっくりお話しください」
新命警部補は事務所から去った。俺は話を始める。
「建付けの悪いドアですみません。まあ楽にしてください」
拭き戻しがちらっと目に入った。神経を使うこういう場面だと、禁煙したことを少し後悔する。
俺の言葉次第で、事は大きく変わる。犯罪者を取り逃がす、というより、死なせてしまうかも知れない。
――さあ、勝負だ。
デスクに座り、俺は話始めた。
 
俺は、新命警部補から預かっていた、古びたノートを見せた。
「ある団体が全員、殺害されてしまったという事件があって、最近になってその事実が判明しました」
「なるほど」
その人物は、相槌を打ちながら俺の様子を伺っているようだった。
「5人の白骨死体と併せて、その団体の責任者が残したこのノートが、大塚山で発見されました。その後、足取りを追ったりして判明したこと――1990年の8月。『怪談クラブ』という名前で活動していたその団体は、あの溶接密室の事件を怪談として扱い、キャンプを行っていたそうです。まあ、傍から見れば肝試しの延長程度の遊びとしか思えませんが。そして何と、その山で全員が誰かに殺害されてしまった」
なるべく緊張を悟られないよう、俺は話を進めた。
「実は、中田礼二さんの事件を調査している間に、新命警部補から依頼を受けていまして。昔起きたこの事件について調査してほしいとね」
「……それで、私を呼んだ理由は何です?」
あちらから本題に迫ってきた。
俺は冷静に考えた。ちょっと話を逸らした方がいいだろうか。それとも少し突っ込んだ方がいいだろうか。
「調べるうちに、興味深い情報を知りましてね」
新命警部補から預かった写真を取り出す。それは、怪談クラブのメンバーとして挙がった5人だった。
「この人たちが集まっていたという場所を、色々調べてみたんです。事務所として使われていた代々木のビルだったり、スナックでの目撃情報であったりをね」
そして俺は、その中のある人物を指さした。
「私が事件の謎を解くきっかけになったのは、ある人物の言動です。メンバーの一人が焼死していたのですが……その殺人の後でトリックが機能していたのです」
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《作者からの挑戦》

海城夕紀は、怪談クラブの事件についてある手がかりを掴んでいた。
ここで読者に挑戦する。夕紀が目をつけた人物は誰か。
○マトヤ
○ミサワ
○オガワ
○ノムラ
○マキ
『推理して<中>へ』
 
『名探偵・海城夕紀』