第7部 最後の挨拶

 
橋 (2).jpg「井沢さん、お久しぶりです」
「ああ。あの事件から、もう一ヶ月も経つなんてね」
「そうですね。まるで昨日のことのようです」
「聞きましたよ。仁藤君も罪を犯していたと……」
「激情型の人だったようですが、思いやりは強い人だったんですね」
「分からんではないが……友人の死を怪談扱いしたからっていう気持ちだけで、人の命を奪うというのも……」
「彼も罪を悔いているそうですから、悪く言うのはやめてあげましょう」
「失礼、その通りですね。罪を償ってくれることを願いましょう」
「――ところで」
「はい、何か?」
「あの美術館の構造について、ああいう建物を建てるのに、結構手配は大変だったと思います。それこそ、あのトリックのように、太陽光が入り込んで火事とかにならないよう、でっぱりの窓をしっかり閉められるような仕掛けにはなっていたはずです」
「……それはそうでしょう」
「娘さんを亡くし、裕子さんと関係が拗れたという礼二さんが、そういう面倒な計画に大手を振って賛同した、というのも、少々違和感がありませんか?」
「……」
「それに、30年も経ったあの夜、菊枝さんに自分が犯した殺人を白状したのも、ちょっと唐突に思えましてね」
「何が、言いたいのかね?」
「いえ。推理でも何でもない私の想像ですし、別の誰かが罪を犯している訳ではありません。ただ私は、この事件に関わった全ての人のためにも、皆が真実に向き合ってほしいと、そう思っているだけです。被害者だけではなく、加害者のためにも。そして、向き合ったなら、亡くなった人たちのためにも生き続けてほしいと」
「……そうですか」
「余計なお世話でしたね。それでは、私は失礼します」

「……あの屋敷の設計を、私が手配しなければ……あの夜、礼二にその話を蒸し返したりしなければ……菊枝さん、仁藤君……君たちが罪を犯すことはなかったかも知れない……ごめんよ……」
〈〈第7部 完〉〉
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『名偵・海城夕紀』