第3部 怪談クラブの惨劇 後編

 
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5人が眠りについた真夜中。
静寂を破ったのはミサワの悲鳴だった。
「うわぁ!」
テントから出たマトヤは、目の前の光景に目を疑った。
ミサワのテントは、激しく燃え上がっていた。
「きゃあ!」
オガワが悲鳴を上げた。
マキとノムラが、ウォーターサーバーの水をテントにかけ、消火を進めた。何とか火は消える。
「ミサワさん……」
マキが呟いた。ノムラはそっと、焦げて縮んだテントをめくった。あのミサワの体が、見る影もなく黒焦げになっていた。
「う……」
オガワが腰を抜かした、
「嘘ですよね……」
ノムラが駆け付け、オガワの肩をそっと叩いた。
「警察を呼ぼう」
マキが言った。
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マトヤは、車を眺めながらマキを待っていた。
――これからどうしたら……。
車の元へ到着したのはいいものの、タイヤに穴を開けられ、動かせなくなっていた。
――どうして、こんなことに……。
腰を下ろし、頭を抱えた。
ガタガタと膝を揺らし、体を大きく震わせた。
マキが戻ってきた。
「下の道を見てきましたが……駄目ですね。舗装されていない道を進んできましたから、この夜中に歩くには危険です」
「そうですか……」
マトヤが溜息を付くと、大きな音がこの山を貫いた。
「何!?」
「行きましょう!」
二人は急いで、来た道を走った。
必死で進んでいると、また大きな音が響いた。
「また!」
マトヤが叫ぶ。
「一体何が……」
マキは息を切らしながら言った。
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オガワは相変わらず動けずにいた。
「大丈夫、二人が警察を連れて来てくれますよ」
ノムラの励ましに、オガワが笑顔を見せた。
「ノムラさん……」
「そうだ、川で水を汲んできます。声を出してくれたらすぐ行きます」
立ち上がることができないオガワは、不安そうな顔でノムラを見つめた。
「……すぐ戻ってくださいね」
「分かってますよ」
ノムラは速足で向かった。
しかし――岩が並ぶ場所を通り過ぎた時、大きな音が響いた。
「うわぁ!」
悲鳴を上げたノムラがそのまま倒れ、オガワの視界から消えた。
「ノムラさん!」
慌てて駆け付けたオガワは、恐る恐る、ノムラが倒れた方向を見た。目の前にあったのは、頭を銃弾で貫かれた死体だった。
「いやぁ!」
オガワは、そっとその死体に触れた。
冷たく、もう脈は全く感じられない。
また腰を抜かし、動けずにいた。
ふと、足音のようなものが聞こえる。
誰かが彼女の元へ近づいてきた。
「あなたは……誰!?」
黒い服を着て、夜の闇に顔を隠したその人物は、オガワに向けた拳銃の撃鉄を引き、シリンダーを回転させた。そして、オガワの足元に銃弾を撃ち込む。
後ずさりしながら、オガワは何とか立ち上がった。
だが――
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立ちすくむマキとマトヤは、何かに気付いた。
誰かが、二人が来た道を降りてくる。ふらふらとした足取りのそれは、わき腹を撃たれたオガワだった。
「オガワさん!」
マキが急いで近づいた。
「マキさん……ノムラさんも……撃たれ……た……」
マキに支えられ、オガワは息絶えた。
マトヤが腰を抜かし、膝から崩れ落ちた。
「一体……何が起きているのですか……!?」
「分かりません……一体誰が、こんな酷いことを……」
二人の間に沈黙が走った。
 
ふと、マチヤは思った。
――あんなことを言っていたけれど……。
今日のことを振り返り、マチヤはあることを思い出した。
 
「……マキさん」
振り向いたマキに、マトヤが呟くように言った。
「あなた、車で来る前に、スーパーのトイレに行っていたと言っていましたね」
「は、はあ。それがどうしました?」
マキが戸惑いながら答える。マトヤは力強く言った。
「あのスーパー、3階には女子トイレしかなかったはずです」
「え……」
口ごもったマキに、マトヤは話を続けた。
「きっと殺し屋でも雇って、この事件を仕組んでいたのですね! スーパーの件で嘘を吐いたのも、きっと打ち合わせを――」
「違います!」
マキは大声で叫んだ。
「じゃあ何故嘘を吐いたのです!?」
「それは……」
少し間が開いた。マトヤが畳みかける。
「答えられないのでしょう。さあ、白状しなさい」
「だから私ではない!」
「いい加減になさい!」
マトヤがマキに掴みかかった。
「マトヤさん落ち着いて!」
「早く言いなさい! あなたが仕組んだのでしょう!?」
もみ合う中、マキが足を滑らせた。
「うわぁ!」
坂道を滑り落ち、そのまま崖の下に落ちて行った。
息を切らせ、マトヤはじっとその方向を見つめていた。
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キャンプの現場に戻り、マトヤは叫んだ。
「出てきなさい! いるのでしょう!」
見回して目に入ったのは、テントごとすっかり燃え上がったミサワと、奥の岩の間から見えたノムラの赤い服だった。
 
最後の銃声は、この山に大きく轟いた。
熱くなる背中を抑えながら、マトヤはそっと振り向いた。
「何故なの……何故あなたが!?」
マトヤの口から、僅かばかりの言葉が漏れた。
「あなたは、一体……」
笑みを浮かべながら、その人物は答えた。
「あなたたちのような人間を、私は許せません」
驚いた形相のまま、マトヤの意識は消えていった。
 
この怪談クラブで何が起きたのか。
その真実が白日の下に晒される日は来るのか。
このときは誰も、知ることはなかった。ただ一人の人物を除いて――
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ノートを読んでいた海城夕紀が、顔を上げた。
〈〈第3部 完〉〉
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《作者からの挑戦》

怪談クラブで起きたこの惨劇。真犯人の正体と動機は分かっただろうか。
この項目の中の真犯人が行動を取ったタイミングに、第6部へ続くリンクがある。是非、探してみてほしい。
 
『名探偵・海城夕紀』