鼠聖書
(『聖書 第3章「創世記」』第2節より抜粋)
この世には、我らの聖域が存在した。
壁は、我々が齧る為に出来ている。
聖域のあらゆる所に隙間があり、我々は自由に行き来できるのである。
しかし、それは神の住む場所である。
神は、我々と違って二本足で立つことができる。
身長も、我々の百倍近くと高々である。
我々共は、神が残してくださったものを食べていた。
神が「チーズ」と呼ぶ、我々の贅沢なご馳走である。
それを彼らは食べ、安息を得ていたのだ。
しかし、そんな彼らを見た神は、怒りの鉄槌を下した。
仕方なく、同胞達は、聖域の上部に在る「屋根裏」なるオアシスへ逃げ込んだ。
神は、硬い、我々の齧られない聖域を作り始めた。
勝手に飲み食いしていた我々に対する戒めである。
『短編と断片』